Column

テクニカルダイビングコラム

09.05

テクニカルダイビングで言葉の定義が大切な理由

テクニカルダイビングと水中探検のDIVE Explorers

なぜテクニカルダイビングでは言葉の定義が大切なのか?

テクニカルダイビングでは、少なくともDIVE Explorersでは、ダイビングで使う単語の一つ一つの意味をとても大事にしています。

テクニカルダイビングでは各々全員が自立したチームメンバーであり、ガイドに何も分からないままついていくのではなく、相互に話し合って自分たちで計画を立てることになります。
ですから、この話し合って計画を立てたときに各々で言葉の定義がふわふわしていると、全員が同じ計画を立てたと思っているのに実際には違う計画でそれぞれが潜ることにもなりかねないわけです。

水中に入ってから“何かおかしい”となっても、陸上でもきちんと話し合えなかったことが水中で修正できるわけがありません。これは極めてリスクが高い状況です。

しかしながら、私が見た限り、このような状況のままでダイビングを行っていることは極めて多いです。
それはすでに認定を受けたテクニカルダイバーであってもです。

一例をあげましょう

例えば「浮上」と言ったとき、あなたはどのように「浮上」するのでしょうか?
チームメンバーが浮上のサインを出したとき、あなたとそのチームメンバーの「浮上」は果たして一緒でしょうか?

テクニカルダイビングにおいて一般的な「浮上」の定義は、

  • 減圧を行わない場合は、最深部から中間の手前までを9m/分の速度で、それ以降を3m/分の速度で上がる
  • 減圧を行う場合は、最深部から最初の減圧深度までを9m/分の速度で、それ以降を3m/分の速度で上がる
  • いかなる場合でも18m/分の速度を超えない

です。あなたの思う「浮上」はこれと一致していましたか?

もしこの定義があなたと目の前のチームメンバーで異なったとしたら、水中で深度がズレてバラバラにはぐれてしまう可能性さえあるわけです。

定義をズレさせないためのアプローチ

このような細かな定義を理解して覚えることは極めて大事ですが、やはり個々人で定義のズレが発生します。
また、自らの経験から、定義は理解していたとしてもその定義通りから変更している場合や、違う手順で何かを行うこともあるでしょう。

これに対するアプローチは、
・お互いの定義のズレを理解する
・お互いに定義をズレさせない
この二種類があると思います。

前者は、何度もお互いにチームメイトとして潜っている間に、意思疎通がとりやすくなってくる、といったものが近いかもしれません。
リスクの低いダイビングを行う中でお互いの認識のズレをすり合わせて、段々とリスクの高いダイビングをしても不安が無いようにしていくものです。

後者は、GUE(Global Underwater Explorers)という指導団体のダイビングに対するアプローチが代表的かと思います。全世界のGUEダイバーで定義を共通化させる(正しい定義をマニュアル化して、ズレを許容させない)というアプローチです。

これはどちらが正解というわけではなく、どちらにもメリットとデメリットがありますが、その大前提として、「言葉の定義を自分で説明でき、実践できる」ことが重要です。
何となく目の前の人に合わせて「浮上」していては認識のズレを補正するも何もないわけですから。

チームメンバーで仲良くなる必要性

上記の大前提が満たされた上で、今後もダイビングを一緒にするメンバーとは、コミュニケーションが円滑に取れる必要があるでしょう。
前時代的な言い方になりますが、寝食を共にする経験も必要かとも思います。
そうやって色々な話をする中で、お互いの手順を整理したり、認識の誤差をなくしたり、そういう作業が行われていきます。

テクニカルダイビングという合理性が重要視されるアクティビティの中で、一周すると“人と人”というような話が出てくるのは不思議な感じがしますが、極めて大事な工程だと思います。

一度よく自分が一緒に潜る人と、お互いの言葉の定義を話し合ってみてください。
ひょっとすると、驚くほど分かり合っていないこともあるかもしれません。
細かいことを話しているかもしれませんが、定義をお互い確認しあうことで、安心してより一歩踏み込んだダイビングができるようになると思います。