Column

テクニカルダイビングコラム

12.19

ソロダイビング(単独潜水)。その安全性とリスク、危険性。

テクニカルダイビングと水中探検のDIVE Explorers

ソロダイビング(単独潜水)は危険なのか?

日本で行うダイビングでは、大きく分けて下記のダイビングのスタイルがある(この区分は、正式なものではないです)。

  1. ガイドダイビング
  2. セルフダイビング(バディダイビング)
  3. ソロダイビング

1のガイドダイビングというのが、一般的に日本で行われている、ガイドについていくダイビングのことを言っている。
2のセルフダイビング(バディダイビング)というのがガイド無しで自らで行うダイビングのことを言っている。正確にはガイドダイビングにおいてもバディダイビングであるはずなのだが、日本においては参加者同士できちんとバディを組まされることはほぼない。少なくとも私は見たことが無い。ので、ここではガイドがいないダイビングをセルフダイビング(バディダイビング)とする。
3が今回の主題だが、すなわち、ガイドもバディもおらず、自分一人だけで行うダイビングのことだ。2のセルフダイビングからバディを除いたもの、とも言えるかもしれない。
(私は個人的には、セルフダイビングの延長線上にソロダイビングがある気がしている。)

ではここで、“ソロダイビング”の安全性を議論する前に、「誰が」「どこで」「どうやって」ソロダイビングをするのか、という前提条件を定めなければいけない。

まず私の結論で言うと、「ソロダイビングの危険度は場合による。場合によってはソロダイビングの方が安全なこともある」「私はソロダイビングは原則行わない」だ。
それを踏まえて、どういう前提条件なら危険なのか or 安全なのかを考えてみよう。

ソロダイビング(単独潜水)を行うと危険な人

まず第一に、リスク分析ができていない人が一番危険である(これはガイドの居ないセルフダイビングでも同じだ)。これが唯一全てかもしれない。
あるいは、リスク分析ができている気になっている人(つまり、結局リスク分析ができていないわけだが)も極めて危険だ。

そこに、中性浮力やスキルのレベル、ダイビングの本数は関係ない。
ダイビングに向き合う姿勢の問題だ。

逆に言うと、リスク分析ができている人はソロダイビングでも安全度が高い。
なぜなら、きちんとリスク分析ができれば、リスクが高いような場合には「今回は危険だからソロダイビングをしない」という選択ができるからだ。
従って、日本で活動されているダイバーのほとんどはソロダイビングに適していないのが現状だろう。
基本的にリスク分析はダイビングサービス/インストラクターに依存していることが多いだろうし、インストラクターであっても現地のこと以外のリスクを分析できるかというと難しい。

きちんと知識を身に着け、スキルを磨き、そのダイブサイトの情報を得て・・・初めてソロダイビングをするという選択肢が浮かぶというような人はソロダイビング(あるいはセルフダイビング)に向いていると思う。

普段もソロダイビングをやっているから大丈夫!と新しいダイブサイトでも考えてしまうタイプの人は危険度が高い。そのようなスタイルで普段やれているのは、「これまで偶然事故が起きなかったから」であって、「事故が起きた時に対応できるわけではない」のだ。

ソロダイビング(単独潜水)をできるようになるには?

では、どのようにすればソロダイビングでも安全度を高められるのだろうか?

リスク分析

まず、リスク分析として一人でダイビングをした場合に、どういう危険性があるのかを洗い出す。
例えば、
・水中でトラブルが発生したときに一人で対応できるのか?
・水中でトラブルに対応するための装備はあるのか?
・急に流れが変わっても大丈夫なのか?
・エントリーやエキジット(水から上がる/戻ってくること)は一人で問題ないのか?
・もしトラブルが発生した/事故が起きた時に、陸上から助けてもらえるのか?
などだ。

この1番目の「水中でトラブルが発生したときに一人で対応できるのか?」と「水中でトラブルに対応するための装備はあるのか?」については、各ダイビング教育機関がそのあたりを標準化したコースを提供している。

PADI セルフ・リライアント・ダイバー・スペシャルティ


※PADIのセルフリライアントコースは、ソロダイビングを推奨するものではありません。

ただ、コースである都合上どうしてもスキルの達成=“リスクに対応”することで評価する部分があり(もちろん、水中トラブルに対応できることは必要だ)、“リスクを分析”することに関する話は触れられてはいるものの具体的な手法はインストラクターの裁量によるものとなっているし、さらに、その他の海事情的なことに関しては範囲に含まれていない。
従って、具体的なスキルや器材、基本的な考え方以外については別で学ぶ必要がある(あるいは、インストラクターに別途講習を依頼する必要がある)と言える。

現地情報の収集

潜ろうとしているエリアの情報を収集する。例えば、

  • エントリーやエキジットは容易なのか?
  • 航路上やマリンアクティビティを行っている場所で、水面に危険はないのか?
  • 滑り落ちたり、上がってこられなくなる可能性はないのか?(特に、ダイビング中に干潮になったりした場合にも問題はないのか?)
  • 何かあったときに携帯電話の電波は通じるのか?
  • 急に流れが変わったり、離岸流が発生したりすることはあるのか?
  • 水中の地形はどのようになっているか?ガイドロープはあるのか、迷っても帰ってこれるのか?
  • サポートが行える人間は現地にいるのか?
  • そもそもそのエリアでダイビングをして良いのか?

というようなことだ。
これらの情報は事前に収集したうえで、自分のスキルや器材を確認し、場合によってはそのダイビングを取りやめるという判断も必要だろう。

また、自然相手のことであるから、最後には当日の現場を見て修正してすることも必要だ。

陸地/水面のサポート

何かがあったときに陸地側からサポートがもらえるのかということは極めて重要だ。これは二人以上でセルフダイビングをする場合ももちろん同様である。

例えばセルフダイビングで有名な大瀬崎では、現地のサービスがセルフダイビングというものを把握していて、初めての人にはブリーフィングを提供したり、何かあった際には助けられるような体制が整っている(また、水中にもガイドロープが引いてあり迷っても帰ってこれるようになっている。なお、セルフダイビングは許可されているが、ソロダイビング(へのサービス提供やタンク貸し出し)については各マリンサービスの判断です。)。

漂流する可能性があるような場所では、事前に最悪のことに備えて船にピックアップを打診しておくことも必要だろうし、船がなければ助けを呼べるよう陸地に残る人を作る必要もあるかもしれない。
漂流中に連絡が取れる手段を持っていくことも望ましいだろう。

最低限、知人に行き先と緊急連絡先を伝えることは必要だろう。セルフでダイビングをして帰ってこれなくなった場合、どこでダイビングをしていたかが分からなければ捜索さえ不可能になる。

ソロダイビング(単独潜水)で最も注意しないといけないこと

上で述べたような注意事項は、何度かソロダイビング(およびバディダイビング)をしている人は徐々に身についてくることだろう。
この記事を見に来るような人は、ある程度安全管理の意識も持っているに違いない。

しかし、そうしてダイビングの経験を重ねてくると、「いけるだろう」というダイビングになりがちだ。
すなわち、注意やリスク管理、リスク分析が徹底できなくなる。
そして、安全より「自分のやりたいこと」を優先した時にこそ事故が起こる。

慢心せずに、そして慣れた時ほど保守的に、自分のライセンスや能力の制限の範囲内でダイビングを行うことが大事だ。

ソロダイビング(単独潜水)の方が安全性が高い(リスクが低い)場合とは?

極めて限定された場合であるが、単独でダイビングを行った方がリスクが低い場合がある。
あるいは、そもそものリスクが極めて低く、かつ水中で実施することも限定的で、複数でダイビングを行う必要がない場合もある。

私の場合は?

まず、私は原則としてソロダイビングをしない。
しかし、以下の二つの場合に単独で潜水を行うことがある(あった)。

器材の調整の場合

まず一つ目は、器材のセッティング等の兼ね合いで、器材の調整やウェイト調整を行うため、海況が極めて安定した場所で水深数メートルまで潜るような場合だ。ダイビングの定義としての水深を満たさないのでダイビングとは言えないかもしれない。
しかしこの場合でも、水中に入ることは現地の誰かに伝えるし浮上予定時刻も伝える。フロートなどの緊急用器材は持っていくし、現地ガイドの方が同じタイミングでダイビングをするようであれば可能な限り同行する。

1人の方が安全度が高い場合

二つ目は、2人以上いる方がリスクが上がると判断できる場合だ。
例えば、リストリクション(狭い場所)の通過等でシルトアウトする(濁って視野がなくなる)ことが分かっているときだ。2番目のダイバーは地形が見えないため通過できない&Uターンすることにも危険を伴う。
上記のようになることが事前に分かっている場合、かつケーブの入り口から近いような場合には、陸地にサポートを残して1人でリストリクションのエリアにラインを敷設し、後日にチームで入ることはあるかもしれない。

ここで、1人の方が安全度が高い場合というのは、決して、自分以外のダイバーのスキルが劣る場合ということではない!
その人とチームを組みたいのならその人のスキルの範囲内で安全な場所に変えるか、事前にスキルトレーニングを行うべきだし、リスクがその人に見合わないようであれば別のダイバーとチームを組むべきだ。

なぜ私がソロダイビングをしないのか?

以前にソロダイビングをしたことはあったが、現在では二つの理由から基本的にソロダイビングは行わない。

1.1人の方が安全かどうかは、水中に入ってみるまで分からないことが多い
まず、海のオープンウォーター環境の場合でスキルが同等レベルであれば、1人の方が安全なことは考えにくい。
洞窟の場合、1人の方が安全な通路があるかどうかは、結局そこに行ってみるまで分からない。一度見て&ラインを引いてしまえば二人の方が安全だ。

2.ソロダイビングは楽しくない!
これが私がソロダイビングを行わない最大の理由かもしれない。
探検の興奮や感動は、私はみんなで噛みしめたいなと思う。

幸いなことに、今では探検するにあたって私のバディが見つからないということはほとんどなく、ボランティアで私に皆が付き合ってくれている。そして目的を共有し(これも大事!)、興奮や感動を共有できていると私は思っている。
これからもこの環境が続きますように・・・!