Column

テクニカルダイビングコラム

12.25

サイドマウントダイビングとは?そのメリットとデメリット

サイドマウントダイビングって何?

ダイビングにおける「サイドマウント」とは、タンク(シリンダー)を背中に装着するのではなく、脇の下に抱えるダイビングスタイルのことを言います。
テクニカルダイビングと言ったときに想像する方も多いのではないでしょうか。

サイドマウントダイバー

このダイビングスタイルはケーブダイビングが発祥のもので、水中の細い通路を通過するために生まれました。
従ってサイドマウント閉鎖環境での探検がベースであり、それに合わせた装備ゆえのメリットやデメリットがあります。

サイドマウントをやってみよう!みたいなBlogはここ以外にも多く出てくると思うので、ここでは新しいスタイルの楽しさや面白さみたいなことは置いておいて、
巷で言われているサイドマウントのメリットの検証や、テクニカルダイビングや探検におけるサイドマウントのメリットやデメリット、最近の流行、普段からサイドマウントでダイビングをしている私自身の実際のところ、のようなところを話せればと思います。

サイドマウントのメリット

サイドマウントのメリットとして、下記のようなことがよく言われます。

  1. ガス漏れや故障の箇所を視認できる
  2. 流線型で水の抵抗が少なく、スムーズに動ける
  3. 器材の運搬が容易
  4. エントリー、エキジットの容易さ
  5. ガス量が多い
  6. タンクが完全に独立しており、バックアップとしての効果が高い
  7. 現地でタンクが手に入りやすい
  8. 狭い箇所を通りやすい

しかしながらこれらは、シングルタンクに対してのメリットなのかダブルタンク(背中に2本背負うスタイル/バックマウントダブル)に対してのメリットなのか不明瞭で、
そのためきちんと
1.シングルタンクと比較してのメリット
2.ダブルタンクと比較してのメリット
を分けて考える必要があります。

サイドマウントとシングルタンク

まず私は、基本的にサイドマウントはシングルタンクと比較するものではなく、バックマウントのダブルタンクと比較すべきものと思っています。
装備装着のややこしさ、サイドマウントを採用することによるリスク等を踏まえると、レクリエーショナルダイビングにサイドマウントは適していないと考えているからです。

サイドマウントはあくまでテクニカルダイビングを前提とした装備であると考えており、私の周囲のインストラクターでも練習や講習のためを除き、ゲストがシングルタンクにもかかわらずサイドマウントを使用している人はめったに見ません。
あれほどサイドマウントが普及したメキシコのインストラクターでも、オープンウォーターでは(ディープダイビングを除き)シングルタンク(またはシングルタンク+前に1本ポニータンクを抱える)です。

従って、サイドマウントと比較するのは基本的にはダブルタンクでしょう。
さて、サイドマウントのメリットとして言われていることについて一つずつ考えてみましょう。

サイドマウントのメリットの検証

ガス漏れや故障の箇所を視認できる

サイドマウントの代表的なメリットです。
これは間違いなく正しく、シングルタンクとダブルタンクの両方と比較したときのても大きなメリットです。
何かしらガス漏れが発生したときに、タンクバルブ ~ レギュレーターのファーストステージ ~ セカンドステージまでがすべて自分の目で確認できるため、故障が発生した箇所をすぐに発見することができます。

また、その場で直せるエラーかどうかすぐに判断がつき、背中にタンクがある場合と違って自分で修理もしやすいです。

流線型で水の抵抗が少なく、スムーズに動ける

私はそのように思いません。
ダブルタンクと比較して流線型であることは事実ですが、それは水の抵抗が少なくスムーズに動けることを意味しません。
サイドマウントではタンクが体に完全に固定されていない分、泳いだときにタンクを引っ張る形になり、泳いだ力は逃げます。
その結果、少なくとも私が泳ぐ速さを測定したところではダブルタンクと泳ぐ速さは変わりませんでした。

なお、シングルタンクと比較すると、シングルタンクの方が圧倒的に泳ぐのは速く、水中の取り回しもしやすいです。

器材の運搬が容易

サイドマウントは1本ずつタンクを持ち運べるということがメリットとよく言われます。

ダブルタンクでは足場の悪いところを運搬したり、背負った状態で崖や鍾乳洞を降りたりすることは現実的ではありません(少なくとも、小柄な我々日本人にとっては!)。
サイドマウントでは1本のタンクを運べば済むので受け渡しなども行いやすく、サポートの人間がいればタンクを運んでもらうことも可能ですから、探検でそのような場所に行く際には非常に効果的です。

逆に言えば、そのような場所でタンクを運搬しない、普通のダイブサイトの場合にはこのメリットは活かされません。

また、シングルタンクで潜るような環境においては、サイドマウントの方が運搬およびエントリー/エキジットが容易になる場合はほとんどありません。そのようなダイブサイトではほとんどの場合シングルタンクを背中に着けて歩いた方が楽で、器材を装着するのもシングルタンクの方が楽でしょう。

従って、「ダブルタンクと比較すると極めて大きいメリットがある。」というのが正しい表現かと思います。

エントリー、エキジットの容易さ

まず、シングルタンクでダイビングをする環境下(=テクニカルダイビングではない)で、シングルタンクよりサイドマウントの方がエントリー/エキジットが容易な場合は極めて稀です。
ではテクニカルダイビングではということでサイドマウントとダブルタンクで比較すると、その容易さはダイビング環境と本人の身体能力に依存するものの、私の経験ではダブルタンクの方が容易な場合が多いです(ただし、腰の負担はありますが・・・。)
特に、減圧用のタンクが複数になるような場合には圧倒的にダブルタンクが容易です。

ビーチ(浜)からのエントリーの場合、エントリーまでが平面ではなく坂や階段で、かつ距離が遠いようなときにはタンクを分けて設置してきた方が楽なこともあります。個人的には、楽というよりそれでダブルタンクと同等ぐらいかなという印象なのですが、女性の方や小柄な方ではそのような環境の場合はダブルタンクを運ぶことが物理的に難しいこともあるでしょう。
ビーチからのエキジットは、上がってくるところの足場がしっかりしている場合はダブルタンクの方が圧倒的に楽です。砂浜の場合でも、脚力があればダブルタンクの方が楽な場合が多いです。
サイドマウントでは装着したまま歩くことが難しい(できなくはないですが・・・。器材も痛みます。)ため、水中に置いて何回かに分けて陸に上げることが多く、より手間がかかります。

船からの場合、エントリーは圧倒的にダブルタンクの方が容易です。
サイドマウントでは装着した状態で歩くことが困難ですし、重力がある環境で装着することも中々手間がいります。
エキジットは、船のハシゴや設備にもよりますが、設置されたハシゴから上がれる身体能力があればダブルタンクの方が容易です。逆にそれができない場合は、水面でタンクを外すというリスクを伴うことになりますが、サイドマウントの方が容易と言えるかもしれません。

エントリーでは、サイドマウントは水中で装着が必要となる/装着した状態では歩きにくいため、シングルタンクより楽な場合はめったにありません。
エキジットでは、サイドマウントのメリットは全部のタンクを外した状態でエキジットできることですが、普通のダイビング環境ではシングルタンクでは容易にエキジットできますから、これもメリットとは言えないと思います。

足場の悪いところからエントリーするような場合、これは正にサイドマウントの独壇場です。
例えば探検のような場合は、ダブルタンクではそもそもエントリーもエキジットも(運搬も含めて)出来ないような場合が往々にしてあります。
例えば、足場から水面までが数メートルあるような場合、サイドマウントでは上からロープでタンクだけ受け渡して水面で装着するようなことが可能です。また、エキジットでタンクだけをロープで渡し、タンクが無い状態でエキジットできるため、ロープを使ってよじ登ったりということもできます。

高所からのエントリー

ガス量が多い

ガス量が多いということについて、これは事実ではありません。
シングルタンクに対してであれば事実ですが、その観点ではダブルタンクでも同じです。
ダブルタンクと比較すると、ダブルタンクではスチールのタンクを使用しやすい(=圧力を高く充填しやすい&タンクのサイズで大きいものがある)ため、ガス量はダブルタンクの方が多い場合が多いです。

なお、シングルタンクから単純にガス量を増やしたい or ガスの予備を確保したいという考え方であれば、シングルタンクにもう一本タンクを持って行った方が簡単です。

タンクが完全に独立しており、バックアップとしての効果が高い

ダブルタンクと異なり、タンクが繋がっていないために煩雑さの代償としてガスのバックアップの効果が高いです。
どこか一点が破損した場合にも、それが原因で全てのガスが失われる可能性はありません。

なお、シングルタンク+もう一本タンクを持つのと比較すると、(特に、中圧ホースをもう一本のタンクのレギュレーターに付けておけば)安全性はほぼ同等です。

現地でタンクが手に入りやすい

サイドマウントの大きなメリットです(もちろんダブルタンクに対してです。)。
サイドマウントはシングルタンクが2つあれば構成できるので、タンクがある環境であれば少なくとも潜水することができます。
もちろん、DINバルブが良い、バルブは左右逆出しが良い、アルミのタンクが良い、などはありますが、離島やへき地ではダブルタンクが無い場合は多いですし、探検の場合にはサイドマウントが第一選択に上がるでしょう。

そういう意味では、スチールタンクでのサイドマウントもトレーニングをしておくと選択肢が広がって良いと思います。
(世界的には、スチールタンクでのサイドマウントが主流の地域も多いです。)

狭い箇所を通りやすい

これは事実ですが、メリットとして言い切ると語弊がある場合もあります。

まず、確かにプロファイル(体の厚み方向の長さ)が狭いようなところにはサイドマウントは進入しやすく、また、狭い箇所を通過する際に脇の下でタンクのバルブ部分がガードされているために故障に強い(また、自分で視認できるため直しやすい)です。

ただし、そのような箇所に侵入する必要がある場合は極めて稀で、大体は横から回り込むことが可能です。
また、そのようなリスクが高い場所に容易に進入できてしまうということも意味します。

なお、サイドマウントコンフィギュレーションは横方向に長いため、縦方向の亀裂に対しては90度体を傾ける必要があります(ダブルタンクではそのまま通過できます。)。

サイドマウントのデメリット

上でデメリットの一部についても述べてしまいましたが、下記のようなことがデメリットです。

  • ホースの取り回しや装備の煩雑さ
  • エントリーやエキジットの煩雑さ、装備した状態で歩きづらい
  • BCDの浮力が小さい
  • 装備が標準化されておらず、チームを把握するまで時間がかかる
  • バルブを閉めた場合に、閉めたタンクのガスにアクセスしづらい
  • 体の左右が塞がる
  • リスクの高い環境に容易に入り込んでしまう

ホースの取り回しや装備の煩雑さ

ホースの取り回しや装備のセッティングはダブルタンクより複雑で、水中で左右のレギュレーターを吸い替えるという手間も発生します。また、減圧用のタンクの取り回しについてもダブルタンクより煩雑になる傾向があります。

エントリーやエキジットの煩雑さ、装備した状態で歩きづらい

エントリーやエキジットについては上で述べましたが、バックマウントよりエントリーやエキジットの工程は複雑になります。
特にボートからのエントリーは手間と時間を取られやすいです。
また、エントリーしてから水面付近で時間をかけられない、ドリフトダイビングのような場合には向いていません。

BCDの浮力が小さい

サイドマウントのBCDはその特性上コンパクトで、浮力は小さい場合が多い(カタログスペックで12~16kgぐらいが一般的)です。
従って、重量が増えるディープダイビングには向いていません。
(※フロリダスタイルのサイドマウントでは一部例外があります。ただし、フロリダスタイルのサイドマウントは私は直近の日本で見たことがありません。)
サイドマウント用BCD

装備が標準化されておらず、チームを把握するまで時間がかかる

装備が標準化されていないというのは必ずしもデメリットだけとは言えませんが、「これがスタンダード」というコンフィギュレーションはサイドマウントでは定まっていません。また、環境に合わせてセッティングを変えていくという都合上、今後も定まらないでしょう。
そうすると、初めてチームを組んだ相手同士ではお互いに分かり合うための時間がより長く必要になります。
例えば、「目の前のチームメイトが実行していることが、正しいのか、それとも焦って混乱しているのか」が自分に分からなくなりがちです。

バルブを閉めた場合に、閉めたタンクのガスにアクセスしづらい

ダブルタンクでは片方のバルブを閉めても、反対側のレギュレーターからすべてのガスにアクセス可能ですが、サイドマウントではバルブを閉めた側のタンクのガスにはバルブを開けない限りアクセスすることができません。
バルブを開け閉めしながらガスにアクセスするスキルは必須で学びますが、片手が塞がりますし、ダブルタンクではそもそもこの工程は必要ありません。

体の左右が塞がる

体の左右をタンクが占拠するため、脚に付けたポケットにアクセスしづらく、減圧ガスを複数本持ちづらいです。
特に我々アジア人は体が小さいため、サイドマウントで複数本の減圧ガスを抱えるには不便があります。

リスクの高い環境に容易に入り込んでしまう

メリットの裏返しですが、経験の少ないダイバーが細い通路に容易に入り込んでしまうリスクがあります。
細い通路はシルトアウト(粒子の小さな砂~泥で視界が喪失すること)を引き起こしやすく、また転回するスペースが取れないなど、「入れるけど出られない」状況に陥りがちです。

最近の流行は?

テクニカルダイビングの装備として、特に日本ではサイドマウントの方が増えてきたように思います。
見た目が明らかに普通のレクリエーショナルダイビングとは異なり、The テクニカルダイビング!という感じがカッコよさがあるのかもしれません。

ケーブダイビングの装備としては、海外でもかなりの人がサイドマウントを使用するようになりました。
メキシコでは、7割ぐらいがサイドマウント、残りがダブルタンクかなと思います。

最近ではリブリーザーも増えてきており、特にファンケーブではサイドマウントリブリーザー(SF2サイドマウント、KISSサイドワインダー、Fathom GEMINIなど)を見る機会が増えてきたように思います。
探検の装備として使えそうなサイドマウントリブリーザーも発表されてきており、これからが楽しみです。

私が普段使っている装備は?

私はサイドマウントでもダブルタンクでも潜りますが、下記のような基準で使い分けています。
(なお、場合によってリブリーザーを用いる場合もあります。)

  • どちらかの装備しか手に入らない場合は、それで潜る。
  • ゲストが居る場合はその装備に合わせる。
  • オープンウォーター環境(頭上閉鎖では無い環境)ではダブルタンク
  • 海洋の洞窟やレックで、洞窟が大きいまたは水深が深い場合はダブルタンク
  • 海洋の洞窟やレックで、洞窟が細い場合はサイドマウント
  • 陸地から入る洞窟で、運搬に問題がなく洞窟が大きい場合はダブルタンク
  • 陸地から入る洞窟で、運搬がしづらかったり水中が細い場合はサイドマウント

ざっくり、ダブルタンクが手に入ってダブルタンクでも潜れるような場所ではダブルタンク、ダブルタンクが手に入らなかったりダブルタンクでは潜れない場所ではサイドマウント、です。

私の感覚的には、ダブルタンクはどっしりしたボート、サイドマウントは感覚に合わせて動けるサーフィンのようなイメージです。

どちらもメリットデメリットがあり、必ずしも一つに絞る必要はないと思いますので、サイドマウントのメリットとデメリットを把握した上で、取り組んでいかれるとよいなと思います。