Column

テクニカルダイビングコラム

08.31

残圧計(ゲージ)の仕組みと使い方、その正確性や故障について

残圧計

我々ダイバーが使っている残圧計(ゲージ、圧力計)。
残圧計とはタンク内(シリンダー内)の残りの圧力を測定するための器材で、これを使ってダイビングの残りの潜水時間などを判断する。

日本でダイビングをしている人で、残圧計を装着せずに潜っている人はまずいないだろう。
しかし、その正しい使い方や注意点、そしてその精度などをきちんと把握して使っている人は少ないかもしれない。

もしかすると、ブラックボックスのまま何となく使っている人がほとんどではないだろうか?

正しく使えれば、また、正しく動いていれば、その仕組みそのものを完全に把握する必要はないが、
正しく使えているか・正しく動いているかが判断できないのは問題がある!
(テレビや車と一緒だ!仕組みを理解する必要は無いが、正常な状態かどうか、また、正常な状態とはどのような状態かは把握しておく必要がある!)

残圧計の仕組み

まず、簡単に残圧計の仕組みを説明していこう。

ダイビングで使用する残圧計は、「ブルドン管圧力計」という機構の圧力計である。(“ブルトン管”と表記されているものもある。)

詳しい説明は割愛するが、残圧計の内部には“パイプ状ブルドン管”という曲がったパイプが入っていて、このパイプにタンクからの圧力が加わるとその曲がりが引き延ばされる。
この引き延ばされる度合いを指針(残圧計の針の部分)に伝達することでタンク内の圧力を表示している。

ダイビングで使用する、ブルドン管型残圧計の内部の仕組み

従って仕組み上、圧力の測定範囲の端(圧がほとんどかかっていない場合や、限度ギリギリまで圧がかかっている場合)は測定精度が低下する。これについてはまた後で述べていこう。

残圧計とタンクは、
・残圧計 – ハイプレッシャーホース(HPホース) – レギュレータ―のファーストステージ – タンク
という順番で接続されており、レギュレーターのセカンドステージ(口にくわえている箇所)とは違ってタンク内の圧力がそのまま残圧計にかかるようになっている。

残圧計とHPホースの間にはエアスプール(Air Spool)という器具が入れられており、そこに付属したOリングによってガスが漏れないようになっている。

エアスプールと残圧計の接続部

水中で残圧計から少量の泡が漏れるという場合には、この箇所のOリングが劣化していたり塩が噛んでいるような場合が多い。
残圧計とホースの接続部から泡が漏れるだけならメーカー送りにしなくてもダイビングショップに修理やメンテナンスを依頼できる場合もあるので、インストラクターに確認してみても良いだろう。

残圧計の故障

残圧計はダイビング器材の中でも比較的故障することが多いパーツである。
残圧計は故障すると修理できないことが多いため、あらかじめ故障を予防するように心がけると良いだろう。

残圧計のガラス面(表示面)の破損

残圧計の表示面はガラスまたはアクリルでできている。
特にガラスの場合、残圧計をタンクの下敷きにしてしまったりするとすぐに割れてしまう。
これを避けるためには、器材を置いておくときには残圧計はBCDの内側に入れてカバーしておくとよい。

また、テクニカルダイビングの場合は、タンクを船から吊るしたり、タンクだけを船へ受け渡したりすることが頻繁にあるが、そのときに表示面をどこかにぶつけて割れてしまうことがよくある。
こちらは表示面を内側(タンク側)に向けておく癖をつけるとリスクを減らすことができる。

残圧計の水没

レギュレーターのファーストステージ(タンクとの接続部)や、残圧計とホースの接続部から水が入り、水没してしまうこともある。
よくある原因は、レギュレーターを洗うときにキャップを閉め忘れた場合や緩んでいた場合と、残圧計とホースの接続部から気泡が出ていたのに無視して潜り続けたような場合だ。

また、テクニカルダイビングで減圧用やステージ用のタンクを追加で持っていったような場合には、水中でレギュレーターにかけてある圧が抜けたままになってしまって水没させることがある。
これを100%避けるのは難しいが、
1.海に入れる直前に、圧を最大までかけること
2.装着した後にもう一度圧をかけなおすこと
3.減圧用のタンクを動かしたときはもう一度圧をかけなおすこと
これらを徹底することで水没のリスクを減らすことができる。

残圧計の破裂

「タンクのバルブを開けるときは、残圧計を下に向けるように!」
このようにオープンウォーターダイバー講習で習ったのを覚えているだろうか?

また、覚えていたとして、毎回きちんと実施しているだろうか?

急いでいるときなど、私も正直なおざりになっていたことはあった。
しかし…

急に圧をかけたときに破損したゲージ

やはり、タンクのバルブを開けた時に残圧計のガラス面が割れるという事象は発生する。
この破損した残圧計は私が撮影したものではなく、別のインストラクターの方から頂いた写真だが、この方は残圧計のガラス面の破裂は30年で2回目ということだ。

昨今の残圧計にはオーバープレッシャーバルブ(OPV。過剰な圧がかかったときに破裂して圧を逃がすバルブ)が搭載されているものもあるが、やはり残圧計を覗き込むようなことはせずに、ガラス面は横~下に向けてバルブを開けるようにすべきだろう。

なお、オーバープレッシャーバルブの位置は残圧計によって異なり、残圧計の側面についていたり裏側についていたりする。
それを踏まえると、ガラス面とオーバープレッシャーバルブのどちらが破裂しても顔の方に飛んでこない向きでバルブを開けるのが良いかもしれない。

残圧計のホース(ハイプレッシャーホース)の破裂

残圧計のホースも破裂する可能性がある。
これは、二つの原因があり、
1つ目の原因はホースに圧をかけた状態で放置され、ホース部分が太陽光などで熱されたことでその中のガスが膨らむことだ(気体は温度が上がると膨張する。)。膨らむとホース内の圧が上がるので、耐えきれなくなったホースが破裂してしまう。

これもオープンウォーター講習で教わる、「圧をかけたまま長時間放置しない」「長時間置くときはパージして圧を抜いておく」ということを遵守すれば避けることができる。

2つ目はホースが傷んできているのにそのまま使用した場合である。
ホースは、ガスが通る空間 – 内管 – 補強層 – 外皮(外側のゴムの部分)という構造になっているが、
繰り返し折り曲げられたりするとこの内管のところからガスが漏れだしてコブのようになっていたり、外皮のゴムがひび割れていたりする。
これを予防しホースの寿命を延ばすには、
1.ホースの付け根が折れ曲がる角度で負荷をかけない
2.紫外線の当たる(=直射日光が当たる)場所に干し続けない
の二つを守ると良いだろう。
1個目は、レギュレーターを干すときにホースの根本に負荷をかけてしまいがちなので要注意。

ただし、ホースはどうしても消耗品ではあるので、傷んできたと思ったら交換するという決断を早めにするのも大事である。

残圧計の正確さと許容範囲

そもそもアナログの残圧計とはどの程度信用できるものなのだろうか?

まず、ダイビングに使われるブルドン管型圧力計では、測定できる最大圧力が大きくなるほど、正確性は悪くなることが知られている。

また、ブルドン管型圧力計では測定できる圧力の最大範囲の上下10%ずつは精度が悪くなる。
※ 正確には最小圧力と最大圧力の差をとるが、ダイビングでは最小圧力はゼロ気圧近辺で、最大圧力から見るとほぼゼロとみなせるので簡易化して説明している。

残圧計のメモリの範囲の読み方

測定できる圧力の上下10%ずつの範囲(目盛範囲B)と、それを除いた中央部分(目盛部分A)でそれぞれ発生する誤差の大きさに準じて精度等級というものが定められており、各残圧計の正確さの指標になっている。

ダイビング用のゲージ

例えば、上の写真の残圧計の測定範囲は0~360barであり、下の10%の0~36bar、上の10%の324~360barの範囲(=目盛範囲B)においては精度が悪いことになる。

ダイビングでよく使われる残圧計は「1.6等級」とされるもので、目盛範囲Aの場合は最大圧力×±1.6÷100、目盛範囲Bの場合はその1.5倍の最大圧力×±2.4÷100までが誤差の上限として認められている。
上の画像のように最大圧力が360barなら、最大で目盛範囲Aでは360×±1.6÷100=±5.2bar、目盛範囲Bでは7.8barの誤差が生じることになる。

  • 一般的な残圧計の最大許容誤差(上限360barの場合)

  • 0~36barの範囲:7.8bar
  • 36~324barの範囲:5.2bar
  • 324~360barの範囲:7.8bar

ポニーゲージについての考え方

残圧計の精度はその直径に比例し、小さい残圧計ほど精度が悪くなる。
テクニカルダイビングではポニーゲージと呼ばれる小型の残圧計を使用する場合もあるが、
ポニーゲージは普通の残圧計の3分の1ほどの大きさしかないため、当然に精度が悪くなる。
(また、ホースを介さずにレギュレーターのファーストステージと直接接続するため、水没のリスクも少し高くなる。)

ポニーゲージ、ボタン型残圧計

ポニーゲージ

ポニーゲージの精度等級はきちんと確認することができなかったが、精度等級として1.6等級より精度の低い等級として定められているものは2.5等級または4.0等級だから、仮にポニーゲージの精度等級を4.0等級、最大測定圧力を360barとすると、目盛範囲Aで±14.4bar、目盛範囲Bでは21.6barの誤差が生じることになる。すなわち、0~36barの範囲においては、誤差が21.6barもあることになる。

これが、メインの測定器としてポニーゲージを使用しない理由である。
20bar以上も測定値がズレる可能性のあるものを、メインの測定具として捉えるのは難しいであろう。

私個人では、トランスミッターを付けている時の予備や、ドライスーツへの吸気用のタンク等の残圧をほぼ確認しないものにしか使用しない。

テクニカルダイビングにおいて、減圧ガスに使用するレギュレーターにポニーゲージを使用している人をよく見るが、常に減圧ガスが大量に残る計画でダイビングをするのなら問題ないが、ガスを使い切る可能性があるような場合には不適切だと言えるだろう。

残圧計の劣化とメンテナンス

残圧計の劣化

最後に、アナログの残圧計はその仕組み上、必ず劣化が生じる。
残圧計の中の曲がったパイプに圧をかけ、それが伸ばされる度合いを測定する仕組みだから、何回も使用すると最初から少し伸ばされたようにる。
そうすると圧力は実際より低く表示されるようになったり、ゼロまで戻らなくなったり(=実際より高く表示される)してしまう。

この劣化は、一見残圧計が故障なく使えているように見えるのでそのまま使い続けてしまいがちであるし、また、その劣化にも気づかないことが多い。
しかし残圧計が正確ではないというのは、残っていると思っていたガスがいきなり吸えなくなる可能性があるということで、極めて危険な状態である。

圧をかける前に針がきちんとゼロを指しているか、また、圧をかけたときに他の人のレギュレーターで測定しても同じ圧を表示しているかをチェックしてみると、劣化していないか簡単に確認することができる。

残圧計のメンテナンス

実は残圧計はメンテナンスできる箇所が少なく、ホースとの接合部ぐらいしかメンテナンスを実施できない。

劣化が起こっていないかを定期的に点検し、特に、残圧計とホースの継ぎ目から泡が出ていたような場合には、少量の海水が入っている可能性が高いのでエアスプール部分のメンテナンスを実施することでその寿命を延ばすことができる。

壊れた場合には基本的には残圧計を交換することになるので、ある程度は消耗品と割り切ることも必要かもしれない。
具体的には5年ぐらいで劣化してくることが多いように思える(もちろん使用頻度や使い方にもよるが)。

終わりに

残圧計を主題にした記事はあまり見当たらなかったので、自分の知識の整理も兼ねて一度まとめてみた。
どれほど需要がある記事かは分からないが、自分の器材をきちんと理解し、安全に残圧計を使用する一助になると幸いだ。